黄斑色素 (Macular Pigment) について |
天然色素の一類であるキサントフィルは生体内では生合成されず、果実や野菜を摂取することで体内に取り込まれます。キサントフィルが体内で吸収されると、血中から体内そして眼内へ輸送され、輸送されたキサントフィルのうちルテインとゼアキサンチンが選択的に網膜の黄斑部に蓄積されます。 その理由として、黄斑部の真ん中にある中心窩にはゼアキサンチンと親和性が高い結合蛋白が、その周囲にはルテインと親和性が高い結合蛋白がこれらの色素に対する受容体として存在(発現)することから、中心窩にはゼアキサンチンが、その周囲にはルテインがこれらの結合蛋白と結合し、黄斑色素として黄斑部を保護するように分布しています。黄斑部の中心窩では、その濃度が最も高く、網膜は10層から成る組織ですが、そのうちの内網状層と外網状層(中心窩ではヘンレ繊維層)に局在することが知られています。 |
■ Bone RA, Landrum JT, Fernandez L, Tarsis SL. Analysis of the macular pigment by HPLC: retinal distribution and age study. Invest Ophthalmol Vis Sci. 1988 Jun;29(6):843-849. (文献の測定値をグラフにして表しています。) ■ 黄斑部の中心窩(fovea)では、「桿体細胞/錐体細胞比」を見ると錐体細胞が多く分布しています。キサントフィル量を「ルテイン+ゼアキサンチン量」で見ると、中心窩ではピーク状に増えているのが分かります。 そして、「ルテイン/ゼアキサンチン比」から、ゼアキサンチンが優位であることが分かります。 |
ゼアキサンチンには、(3R,3`R)-ゼアキサンチン、(3R,3`S; meso)-ゼアキサンチン、(3S,3`S)-ゼアキサンチンルテインといった3種類の立体異性体があります。(3R,3`R)-ゼアキサンチンは自然界に存在し、(3R,3`S; meso)-ゼアキサンチンは食物や肝臓、血液には存在しませんが、眼組織に認められています。 黄斑部では、ルテイン、(3R,3`R)-ゼアキサンチン、(3R,3`S; meso)-ゼアキサンの比率は、1:1:1であり、後者の(3R,3`S; meso)-ゼアキサンルテイン の存在は、眼内でルテイン から変換された結果と考えられています。ゼアキサンチンはルテインと化学構造が似ていますが、ルテインより共役二重結合が一つ多いことから、フリーラジカルの一つである一重項酸素を消去する力もルテインよりも強いと考えられています。 |
これらのゼアキサンチンと親和性が高く結合するタンパク質、いわゆる、ゼアキサンチン結合蛋白は、Glutamine S-Transferase (GSTP1)と同定されています。この結合蛋白はG S Tファミリーの一つで、細胞毒となりうる代謝物質や異物化合物をグルタチオンと抱合体に変換することで解毒因子として機能するとともに、細胞内の主たる抗酸化因子として、酸化ストレスや脂質過酸化反応の抑制に関与する酵素とも考えられています。そして、GSTP1は、黄斑部の内網状層と外網状層に局在していることが知られています。
一方、ルテイン結合蛋白は、StARD3(Steroidogenic Acute Regulatory Domain)と同定されています。 |
■ Zeaxanthin: Matabolism, Properties, and Antioxidant Protection of Eyes, Heart, Liver, and Skin Murillo AG, Hu S, and Fernandez ML Antioxidants(Basel). 2019 Sep; 8(9):390 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6770730/ ■ Identification and Characterization of a Pi Isoform of Glutathione S-Transferase (GSTP1) as a Zeaxanthin-binding Protein in the Macula of the Human Eye Bhosale P, Larson AJ, Frederick JM, Southwick K, Thulin CD, and Bernstein PS LIPIDS AND LIPOPROTEIN vol279, ISSUE 47, 49447-49454, NOVENBER 2004 https://www.jbc.org/article/S0021-9258(19)32340-3/fulltext ■ Identification of StARD3 as a lutein-binding protein in the macula of the primate retina Li B, Vachali P, Frederick JM, and Bernstein PS Biochemistry. 2011 Apr 5; 50(13): 2541-2549 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21322544/ |
2024年05月15日 記 |